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@:大前提 基本の狙いどころ


A:狙いどころを狙うために ― 情報戦


B「フォーメーション」を使って弱点を突く
/⇒人数
/⇒スペース
/⇒マッチアップ


前編まとめ
Home >Football >●なぜ・どう「隊形/フォーメーション」を使い分けるのか

はじめに


誰もが『ルールがよくわからない』というスポーツ。アメリカンフットボール。
実はある程度の試合の流れさえつかめば、『ルール』より『戦術・戦略』について知ったほうが100倍面白いスポーツです。
解説できる限り、ここで解説いたします。RPG(ロールプレイングゲーム)や戦略ゲームなどに例えていきます。

※そのため、このページではやや「用語」に関して正式なものよりイメージしやすいものを使い、「ルール」に関しては厳密なものを省きゲームを観るためのものを優先して説明する場合があります。ご了承ください。

なぜ・どう「隊形/フォーメーション」を使い分けるのか



■なぜ・どう「隊形/フォーメーション」を使い分けるのか■



ここまで「試合のだいたいの流れ」「攻守のポジションと動き」「ランプレーとパスプレーの基本的な攻撃方法・守備方法」をやってきました。
さてここから、全体的な、より戦術的な話になってきます。いままであっさりとした説明(TVなどで試合を見たことがある事を前提に、こまかい事を省略し流れを優先しました)だったので、 難しく感じるかもしれませんが、知れば知るほど奥が深い部分だと思います。
とくにこの辺からアメフトをやったことがない人に分かりやすく説明して知って頂きたいところですが、私の稚拙な表現で興味を持っていただけるかどうか。とりあえず、頑張ります。


◆@:大前提 基本の狙いどころ


さて、いままでも触れました「隊形/フォーメーション」ですが、隊形はサッカーにもバスケにも存在します。
が、アメフトの場合一回一回静止した状態から始まるため、より最初に配置している隊形の重要性が高いと思われます。
これはサッカーのセットプレーで例えられるでしょう。流れの中よりも増して、最初のポジションどりが大事になってくるわけです。 そしてそのポジションどりで生まれた攻守の位置関係により、「狙いどころ」が生まれてきます。
アメフトの話に戻りますが、
攻撃は、これまで説明しましたランプレーやパスプレーを使って、ボールを進ませようとします。
これらの「プレー」は11人全員の配置と動きが定められており、そこにはプレーごとに意図と「狙いどころ」も最初から定めてあります。
攻撃側はいくつか準備してあるプレーの中でその「狙いどころ」に相手の弱点と味方の強みがありそうな、 有効な「隊形」とそこから有効な「プレー」を選択するわけですが、相手守備もこちらの攻撃意図を予想し考えて、いくつかの守備のパターンから選択してくるため、それがカードゲームのような要素があるわけです。



●基本の狙いどころ:ランプレー




上図の例は、もう何度か出しましたおなじみの体型・隊形ですが、攻撃側はプロIフォーメーションという名前の隊形です。対し守備は4-3(フォー − スリー)という隊形です。
まず、大前提ですが、攻撃はこのプレーでランニングバックにボールを持たせて前進したいのですが、当然オフェンシブライン達の間を狙いたいわけです。間に走り抜けるスペースがあるわけですから。
さらに、敵の最前線のディフェンシブラインもいない間 = 隙間を狙いたいと考えると、オフェンシブラインの間で、かつディフェンシブラインもいない


(きみどり色の)これらの間(アンカバーのギャップやホールといいます)をランナーを通らせようというのが基本的な「狙いどころ」ということになります。


●パスプレーの場合。


パスの場合はボールを持つ人間が決まっているわけでなく、パスターゲットになるレシーバーが複数いるのですが、基本的に敵がはじめからいない場所を狙う、という点で同じです。
下の図の例では守備のパスカバーをゾーンカバーである「カバー3」にしましたが、ディフェンスのページで説明しました通り、
守備側は両コーナーバック(CB)とフリーセイフティ(FS)が均等に3等分に奥のゾーンを守っているのですが、攻撃側はそれに対し、両翼のワイドレシーバー(WR)をCBの前のスペースに、 タイトエンド(TE)を右CBとFSの間のスペースへと、この守備のパスカバーの、スペースのある場所を原則的には狙うのです。



◆A:狙いどころを狙うために ― 情報戦


●スカウティング

さて大前提では、原則的には攻撃は攻撃する際に、そういった場所を狙います。
しかし ― いきなり大前提を崩してすみません…
そう簡単には行きません。
先ほどの例は、(ランの例)「相手が4-3隊形で来る」(パスの例)「相手がカバー3で来る」とわかっていればの話です。実際、相手守備もいろいろ隊形とプレーを繰り出してくるのです。
そこにフィールドの外の戦い ― 情報戦があります。
チームにいる選手・コーチ・分析スタッフは、事前に相手の別の試合のビデオなどから、どのような配置をしてくるのか、下調べをしています。相手守備が複数のパターンを使ってくるなら、どれを、どのような状況のときに何%出して来るのか、分析し統計を出しておくのです。 (スカウティング、と言います)。すごい大変な作業で、この時アメフト部は一時的になんだか株式マーケティング研究部のようになります(笑)

しかし「守備にも意図がある」これがキーポイントです。意図がある以上、適当にランダムにカードを切っているわけでなく、何らかの傾向が出てくるのです。
そうすると、特定の「攻撃隊形」には特定の「守備隊形」で配置してきて、特定の状況、例えば長い距離が残っていて、攻撃が長いパスを投げることが予測される状況では高確率で、パス守備に向いたある隊形とカバーを使ってくるなど、 傾向が出てくれば攻撃はそれを逆手にとることも出来ます。もちろん相手チームも同じくこちらの研究をしているわけですが…


◆B「フォーメーション」を使って弱点を突く


・弱点の発見


さて、分析の結果(この分析はなんと試合中もコーチや分析スタッフによって続けられます、PCやタブレットなどの電算機器はさすがに使用禁止で、アナログで行います。)、特定の攻撃隊形に特定の守備隊形で来ることがわかったとします。
それに関して複数のデータが得られたとします。ここに、@の項で説明しました「基本の狙いどころ」にさらに加えて有効な狙いどころが生まれる可能性があります。図と試合中をシミュレートした例をもとに説明しましょう。

試合が始まり、攻撃はこの隊形、プロIフォーメーションで最初の攻撃を開始しました。
ProI Formation


スタジアムの上段の席には分析スタッフがおり、上から俯瞰的に配置を監視しています。プレー終了後、ヘッドコーチに無線で情報がきました。
4-3
ProI Formation
「相手はこのように配置してきました。試合前の分析どおりです」

2ndダウン-2ターン目の攻撃、ヘッドコーチはこの隊形を試してみます。
プロIから右のレシーバーを左の中間位置に持ってきただけですが、れっきとした別の隊形、ツインフォーメーションです。
ツインフォーメーション
上空から無線が入ります。


「相手はこのような配置で来ました。ヘッドコーチ、この相手の配置には…「弱点」があります。」
twin_vs_4-3-2

●人数の優位

…さて、まず前述のプロI隊形と比較した場合ですが、攻撃側は右から左に1人レシーバーを移した隊形をとりましたが、守備側は、この図ではもともと真ん中より左側にいたラインバッカー(WLB)を広がらせてレシーバーの前に配置しました。 左右比で言って、攻撃側はプロIのときに比べ左に人数がひとり増えているのですが、守備側は、増えていないのです。「左右人数」で考えて、左への攻撃は利がありそうです。


また、中央のランプレーを行うにあたって重要なエリアを「ボックス」と言います。
攻撃側オフェンシブライン(TE含め)の端から端までの幅で、守備側の第2線目=ラインバッカーまでの高さの「四角形=箱」に囲まれた密集地のエリアをいいます。

box_proi.jpg(46174 byte)
(↑この場合のボックス)

box_twin.jpg(46377 byte)
(↑この場合のボックス)

攻撃側オフェンシブライン(OL)のブロックとボールを持ったRBの突進が来て、守備がそれと戦うことになる、ランプレーの主戦場、という事になりますが、 攻撃隊形がツイン隊形になり、WLB(ウィークサイドラインバッカー)がインサイドのレシーバーをカバーするために広がり、この「ボックス」のエリアから出ていってしまいました。 「ボックス内人数」がひとり減ったことになり、中央のランプレーにも攻撃側に優位性がありそうです。


●スペースの優位

次に「スペース」です。守備側は、左のウィークサイドラインバッカー(WLB)を広げることで対応しましたが、下の図のきみどりの場所を見てください。
最前線の、攻撃側の左のタックル(T)とガード(G)の間は、守備側にも隙間があります。 さらにその後ろの2線目、そこにいたはずのラインバッカー(WLB)がいなくなったため、 つまりここは1線目も2線目もいないスペースがあいているのです。
(FSも少し左に寄ったため、3線目もわずかにスペースが広がっています)



…これを聞いたヘッドコーチはすぐ判断を下します。
「ではこのスペースを突くプレーとして、これをコールしよう」
「ツイン レフト, ウィーク パワー レフト」
Twin_Weak_Power
(見かた 青い駒=攻撃側選手/赤い駒=守備側選手/黄色い駒=攻撃側ボールを持つ選手  青色の線=攻撃側のブロック/黄色い線=ボールを持つ選手の走るコース/オレンジの線=QBの動き)
一番後ろにいるランニングバック ― テールバック(TB)にボールを渡すプレーです。
テールバックはだいたいチーム最速クラスの選手がやり、ランプレーで主戦力になる選手です。前に前進したいのに、主戦力の選手をこんな後方に配置している理由は、
それは「彼より前にいる選手を、なるべくすべてブロッカーとして使うため」です。
このプレー、テールバックが後方に配置しているために、前にいるフルバックも、なんと逆側である右のガード(G)も左に回り込んでテールバックの前でブロックできます。
このランプレー、「パワー」という名前ですが、攻撃地点に、ありったけ兵力=ブロック人数を投入しマンパワーで上回ろうという意味の「パワー」なのです。

twin_weak_power_box
上図のように、このツイン隊形の「片側にふたりレシーバーがいる」という特徴によって、ウィークサイドラインバッカー(WLB)を広げボックスから外に出し、この地点に人数の優位とスペースの優位を作り出すことが出来ました。
またツイン隊形の「テールバックが後方にいる」という特徴によって、「(ウィークサイドの)パワー」という、この地点へありったけブロック人数を投入する攻撃が可能になったのです。


●マッチアップの優位

さて、続きです。長いですがおつきあいください…
3rdダウン、この「ツイン隊形から」「ウィークサイド(タイトエンドのいないサイド)である左サイド」に「パワー」というランプレーを繰り出しました。 1ヤードの前進。あれ?思ったほど前進できませんでした。

今度はフィールドの選手から、現場の情報が入りました。
(アメフトは選手交代が無制限で出来るので、攻撃中でも選手交代を使って情報のやりとりが出来ます)


A:キャプテンである68番右のガードより「さっきのプレー、91番がブロックを破って止まりました。俺が91番を倒します。逆側であのプレーを試してください」
B:レシーバー83番より「WLBより自分のほうが、全然速いです」

さて、この情報は何を意味しているのか?

そうなのです。図面上優位なだけでは、かならず有効な結果が出るとは限らないのです。

A:逆をやってみてくれ、というのは、下図のようなことです。

同じツイン隊形から同じプレーですが、左右反転し、右のガード(G)とタックル(T)の間を狙います。
すると右のガードは、右のディフェンシブタックル(DT)をブロックする役割になります。

オフェンシブラインは、隊形が左右反転しても、そのまま右のGの選手は反転せず右のGのままにしておくチームが多いです。
逆にディフェンスは、攻撃が左右反転すると、合わせて、配置を左右反転する(フリップする)チームが多いです。
(チームによって違いますから、情報が必要です)
つまり、この場合誰は誰と対決するか「マッチアップ」が左右で変わるということです。言葉で説明するとややこしいので、下記に選手の背番号入りで表してみました。
flip_right

flip_left
さっきは左のガード52番が相手DT91番をブロックしきれず、91番にたった1ヤードでタックルされてしまいましたが、
右のガード68番は、反転させてプレーを右でやった場合に対決する、ディフェンスタックル(DT)91番を押し込む自信があるというメッセージなのです。
そして、このランプレーでは、テールバックが走る道の最も近くである、この場所のブロックがとても重要になります。
ちなみにここでの設定として、68番は体重100kgのパワー派、左のガード52番はスピード派の体重85kg。相手91番は体重110kgの巨漢としましょう。同じプレーでも右に展開すれば100kgの68番が巨漢91番と対決し、52番がスピードを活かしてテールバックの前に回り込んでブロックします。
こういった個人データ(体重だけでなく特徴・強み・弱みも)はコーチの頭の中に試合前からインプットされていてしかるべきで、本来始めから右に展開すべきでした。


それ以上に、柔道で「1度組むと相手の強さがわかる」といいますが、68番はいままでの攻撃で敵の91番と組んだ感触で優勢を感じ、 このマッチアップの優位がこの「パワー」というプレーを有効にすることを理解し、 右にパワーをやった方が有利かも、という情報として送ってきたのです。
こういった「肌身で感じる現場の情報」が大事です。


B:さて、レシーバー83番の言う「WLB(ウィークサイドのラインバッカー)よりスピードで全然優勢です」という情報ですが、 もともと配置から言って予測できる情報です。
「インサイドレシーバー」(IR)というのは、最も外側にいるワイドレシーバーに対して、このようにひとつ内側に入った位置のレシーバーをこう呼んだりします。
Inside Receiver

彼はプロIではワイドレシーバーをやる同じ選手がここに位置しているのですから、スピードとキャッチ能力を備えていることでしょう。しかし正面で彼をマークしているのは、パスカバーの専門家コーナーバック(CB)ではなく、ラインバッカー(LB)です。
ラインバッカーはオールマイティな能力を持ちますが、スピードではワイドレシーバーに劣る可能性がもともと考えられます。逆にパワー(筋力の)では相手のが優勢であることが予想されます。
コーチは、このレシーバー(IR)とラインバッカー(WLB)の「マッチアップ」の、スピードの優位を活かして、下記のような、スピードで振り切るコースが含まれているパスなどを繰り出してあげれば、 ここは攻撃側に優位なポイントになります。
もともと配置上レシーバーにラインバッカーがついたことで、この場所は、 この攻撃隊形に対する、この守備隊形のなかで、パス攻撃において攻撃最大の優位地点、守備最大の弱点になり得ます。
ただしこのインサイドレシーバーよりこのラインバッカーのが速ければ、そうではなくなります。
twin_ipass

将棋やチェスのようなアメフトですが、生身の人間がそれをやっている面白さがここにあります。同じ駒は同じ能力ではないのです。 フォーメーションの配置の情報とともに、個々の選手の力量差=マッチアップの情報が戦術に組み込まれていきます。
フォーメーション+個々の力量+プレーで、成否が決まるのです。

さてこのパス、外側に切れるコースを走る速いレシーバーに、ラインバッカーは引き離されてしまいますし、といってあまり外に注意を向けると、その内側、先ほどのランプレー「ウィークサイドパワー」でより弱点を与えることになってしまいます。 この外側のパスと内側のラン両方交互に繰り出され、止まらなくなったら大ピンチです。そうなる前に、今度は守備側が手を打ちます。
twin_ipass_vs_cover3
(上図)守備はWLBを中央のランプレー主戦場「ボックス」の中に戻し、代わりにディフェンシブバックであるストロングセイフティ(SS)をIRの前に配置しました。これでスピード的に対抗できます。
後方にセイフティがひとりになってしまいましたので、両方のコーナーバックを下げ、パスカバーをカバー3の形にします。これでいま攻撃側にランとパスで突かれていた配置上の弱点は消えました。

攻撃はまたこの配置を分析し、新たな狙いどころを探します。守備はまたそれに対抗し、逆に守備から先んじて仕掛けることもあります。 その情報と、隊形と、個人技と、プレーが織り混ざった頭脳戦の応酬が、選手だけでなくコーチ、分析スタッフなど総動員して時間いっぱいまで続いていくのです。


■まとめ

大変長くなりましたが、これが、アメフトで攻撃フォーメーションをいくつか使い分ける理由です。
いくつかの「隊形」を使って、それに対する相手の配置によって生まれる、人数、スペース、マッチアップの「優位な場所」を見つけ、そこを狙った最適な「プレー」を選択します。
それにはこのような、上空から、フィールドの現場からの数々の「情報」が不可欠です。
観戦する方にとっては、この情報を共有することが出来ないのですが、いま目の前で繰り出されているプレーを見ることで、わかった時、わかったような気がした時、両陣営の中にいるような、ぐっと臨場感が増します。

特に何度か攻撃側が「繰り返す」●場所●隊形に注目です。なんだか同じ隊形を繰り返し使ったり、隊形はいろいろなのに、「場所」が同じ場所を繰り返し狙っていたりする気がする場合、そこに相手の弱点があるんだろうか?と見てみると意図がわかる時があります。
人数やスペースの弱点は、その辺がなんとなく「すいている」ような気がします。マッチアップは見て分かるのは難しいと思いますが、まずは攻撃のワイドレシーバーと守備のコーナーバックの対決、攻撃の左のタックルと守備の左のディフェンシブエンドの対決に注目、あとTV観戦なら解説者がけっこう言ってくれます。


少し長く説明しすぎてしまい(その割にディフェンスの説明がほぼ皆無…)分からなくなってしまった方もいると思いますが、
■「隊形」と「プレー」を組み合わせて、人数的に・スペース的に・マッチアップ的に優位な「ポイント(場所)」を狙って攻撃する
■それを見つけるため壮絶な情報のやり取りが行われている
これを知っていただければ、アメフト観戦上級者の仲間入りです。



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